消えていく憩いの場

私にとって放心亭といえば、ロールキャベツと、ニシンの酢漬けだ。


キャベツの葉が柔らかくなるまで煮込んだ定番の味。
自分で作ると、ここまで煮込むまで待てずに食べてしまう。


そして酢の作用によるものか、とろりとした食感の酸っぱいニシン。
この写真の時は漬かりが浅くて今一つだったが・・・。


 初めて訪れたのはいつだったか。
手帳をひっくり返してみると初出は2008年の2月28日。
いやいやそんなはずはない、
もっと以前から来ていたはずだ。
(同じ月に数寄屋橋次郎の名があった。
未だに行けていない。)



私が学生の頃、当時は壁中隙間なく作家の色紙で埋め尽くされ(今とは比較にならない上から下まで)、
セピア色になったものや新しい真白の色紙、知っている作家のものを見つけ出す楽しみ。
”あ、炎のロマンス”



オレンジ色の照明の下、全てが輝いて見えた。
居心地の良い薄暗がり。
深い緑色のベルベットのソファー。
バトラー風の、舞台俳優のような通る声の年配のウェイター。
客とのやり取りはシェイクスピアを観ているようだった。



その方も今はいない。

大勢の中の一人、私を知る人はいないという、どこか旅先にも似た解放感。
気疲れした時の憩いの場だった。



時にBGMの雰囲気が変わり、時に照明の暗さが変わり、時に床がキュッキュと鳴り・・・。



40年間もありがとう。

1981年開店。 1999年リニューアル。 2022年5月閉店予定(再オープンの可能性あり)


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