古代の書物に見られる鉱物 〜 聖書編 〜
〜 創世記から登場する鉱物 〜
「 主なる神は東の方、エデンに一つ園を設けて・・・一つの川がエデンから流れ出でて園を潤し、
そこから分かれて四つの川になった。
その第一の名はピソンと言い、金のあるハビラの全地をめぐるもので・・・
またそこはブドラクとしまめのうとを産した。 」
(旧約聖書 創世記 第2章)
意外にも縞瑪瑙は最古の書物と言われている聖書に金に次いで二番目に登場します。
エデンの園から流れている四つの川というのは、例の四大文明の川です。
縞瑪瑙 (クレージーレースアゲート) メキシコ Agate / Mexico
「 アブラハムは家畜と金銀に非常に富んでいた。彼はネゲフから旅路を進めて・・・ 」
(旧約聖書 創世記 第13章)
銀は金と並び貨幣として、装飾品としてたびたび登場します。
「 主は硫黄と火とを主の所すなわち天からソドムとゴモラの上に降らせて・・・ 」 (旧約聖書 創世記 第19章)
硫黄は、しばしば人類を滅ぼす手段、また罰の象徴として用いられる鉱物のようです。四番目に登場する鉱物です。
硫黄 (サルファー) Sulfur
〜 古代より生活に欠かせない金属 〜
「 彼らは鉛のように、大水の中に沈んだ。 」 (旧約聖書 出エジプト記 第15章)
鉛はモーセがイスラエルの人々と主へ歌った中に初登場します。
ずっしりと重い鉛が海に落ちてゆく人の様をリアルに想像させます。
方鉛鉱 (ガレーナ) アメリカ Galena / USA
「 青銅は祭壇をおおう、灰をとるつぼ、十能、鉢、肉叉、火皿、網細工の格子、環、釘、座、器に用いられた。
」
(旧約聖書 出エジプト記 第27章)
6番目に登場する青銅。錫や銅より先に青銅が出てくるところが興味深いです。
銅も早々に登場となりそうですが、銅と錫の合金である青銅が生活の場で活躍します。
聖書では「金」 「縞瑪瑙」 「銀」 「硫黄」 「鉛」 「青銅」の順で登場します。
ケルティックブロンズ (ケルト民族 青銅アクセサリーの一部)
「 金、銀、青銅、鉄、すず、鉛など、すべて火に耐える物は火の中を通さなければならない。 」
(旧約聖書 民数記 第31章)
錫製小壷
〜 聖書に見られる鉱山の様子 〜
「 しろがねには掘り出す穴があり、精錬するこがねには出どころがある。
くろがねは土から取り、あかがねは石から溶かして取る。
人は暗やみを破り、いやはてまでも尋ねきわめて、暗やみおよび暗黒の中から鉱石を取る。
彼らは人の住む所を離れて縦穴をうがち、道行く人に忘れられ、人を離れて身をつりさげ、揺れ動く。
地はそこから食物を出す。
その下は火がくつがえされるようにくつがえる。その石はサファイヤのある所、そこには、また金塊がある。
その道は猛禽も知らず、たかの目もこれを見ず、猛獣もこれを踏まず、ししもこれを通らなかった。
人は堅い岩に手をくだして、山を根元からくつがえす。彼は岩に坑道を掘り、その目はもろもろの尊い物を見る。」
(旧約聖書 ヨブ記 第28章)
しろがね (銀)
雑銀鉱 (ポリバス鉱) Polybasite / Akita pref Japan
くろがね(鉄)
赤鉄鉱 (ヘマタイト) Hematite / Iwate pref Japan
「 銀と金、青銅と鉄の器は、みな主に聖なる物・・・ 」 (旧約聖書 ヨシュア記 第6章)
黄鉄鉱 (パイライト) Pyrite / Iwate pref Japan
腎臓状赤鉄鉱 (ヘマタイト) モロッコ Kidney Hematite / High Atlas Mt Morocco
あかがね(銅)
「 バビロンは、わざわいだ。・・・彼らの商品を買う者が・・・金、銀、宝石、真珠・・・銅、鉄、大理石などの器・・・ 」
(新約聖書 ヨハネの黙示録 第18章)
自然銅 (カッパー) アメリカ Native Copper / Caledona mine Michigan USA
アハシュエロス王(インドからエチオピアまでを治めていました)の宮殿の様子
贅沢な作りの宮殿に住まう当時の人々が目に浮かびます。
「 そこには白綿布の垂幕と青色の帳とがあって、紫色の細布のひもで銀の輪および大理石の柱につながれていた。
また長いすは金銀で作られ、石膏と大理石と真珠貝および宝石の切りはめ細工の床の上に置かれていた。 」
(旧約聖書 エステル記 第一章)
モザイクプレート
マラカイト、オパール、トルコ石などの天然鉱石が使われています。
大理石 (再結晶化石灰岩) Calcite / Nagano pref Japan
石灰がマグマの熱を受けて接触変成作用で再結晶したもの。
「 イエスがベタニヤで、らい病人シモンの家にいて・・・ひとりの女が、非常に高価で純粋なナルドの
香油が入れてある石膏のつぼを持ってきて、それをこわし、香油をイエスの頭に注ぎかけた。 」
(新約聖書 マルコによる福音書)
板状透明石膏 (セレナイト) モロッコ Selenite / Bou Beker Morocco
石膏 (セレナイト) Selenite
〜 知恵を見いだす海の宝石 〜
「 彼は水路をふさいで、漏れないようにし隠れた物を光に取りだす。しかし知恵はどこに見いだされるか。
悟りのある所はどこか・・・精金もこれと換えることはできない。銀も量ってその価とすることはできない。
オフルの金をもってしても、その価をはかることはできない。尊い縞めのうも、サファイヤも同様である。
こがねも、玻璃もこれに並ぶことができない。また精金の器物もこれと換えることができない。 」
「 さんごも水晶も言うに足りない。知恵を得るのは真珠を得るのにまさる。 」
(旧約聖書 ヨブ記 第28章)
天然黒珊瑚 (コーラル) 中国 Natural Black Coral / East China Sea
深海松珊瑚 (レインボーコーラル) ブレス Rainbow Coral
水晶 (クウォーツ) パキスタンQuartz / Pakistan
ライモナイトによりタンジェリンカラーになっています。
淡水パールブレスレット
〜 エポデ (大司祭の胸当て) に使われていた鉱物 〜
胸当てはもともと兵士が胴体につけ、それぞれの民族を象徴する宝石や貴石を装飾に用いたものです。
誕生石の由来ともなっています。
「 あなたは・・・胸当てを巧みなわざをもって作り・・・宝石を四列にはめ込まなければならない。
すなわち紅玉髄、貴かんらん石、水晶の列を第一列とし、
第二列はざくろ石、るり、赤縞めのう。
第三列は黄水晶、めのう、紫水晶。
第四列は黄碧玉、縞めのう、碧玉であって・・・」
(旧約聖書 出エジプト記 第28章)
第一列
紅玉髄 (カーネリアン) 丸玉 Carnelian
紅水晶 (ローズクウォーツ) 丸玉 Rose Quartz
貴かんらん石 (ペリドット) パキスタン Peridot / Karakumn Pakistan
水晶 (クウォーツ) 内モンゴルQuartz / Mongolia
第二列
ざくろ石/鉄礬柘榴石 (アルマンディン) パキスタン Almandine / Skardu Pakistan
瑠璃 (ラピスラズリ) アフガニスタン Lapislazuli / Badakhshan Afganistan
ラピスはラテン語で「石」、ラズリはアラビア語で「紺碧の天空」を意味しています。
古代の遺跡からラピスラズリをつかった宝飾品が沢山出土されています
赤縞めのう ビーズ
第三列
黄水晶 (シトリンクウォーツ)
Citrine Quartz
めのう上に成長した 紫水晶 (アメジスト) Amethyt
第四列
黄碧玉/蛇紋石 (サーペンティーン) 中国 Serpentine / China
縞めのう/錦石 (カルセドニー) タンブル Chalcedny / Aomori pref Japan
碧玉/ロシアン翡翠 (ネフライト) ロシア
〜 ツロ王を飾った鉱物 〜
上記の出エジプト記のエポデに使われた鉱物とほぼ同じです。
聖書は古代シュメールの伝説などが元になっているという説もあり、
古い書物にありがちな重複したような場面やディテールが見受けられます。
編纂する際に様々な話が入り混じり、また複数の人が携わった為でしょうか。
この後出てくるエルサレムの城壁の石も同じような石の構成です。
単純に、古代における宝石、貴石名の種類が少なかったためかもしれませんが。
「 あなたは神の国にあってもろもろの宝石があなたをおおっていた。
すなわちあかめのう、黄玉、青玉、貴かんらん石、
緑柱石縞めのう、サファイア、ざくろ石、エメラルド。 」
(旧約聖書 エゼキエルの書 第28章)
赤めのう (カーネリアン) タンブル Carnerian
「 ・・・エチオピアのトパズもこれに並ぶことができない。 」
(旧約聖書 ヨブ記 第28章)
黄玉 (インペリアルトパーズ) ブラジル Topaz / Brazil
青玉 (ラピスラズリ) リング Lapislzuli
貴かんらん石 (ペリドット) パキスタンPeridot Crystal / Pakistan
緑柱石 (アクアマリン) アフガニスタン
Beryl (Aquamarine) / Afganistan
縞めのう (ブルーレースアゲート) ペンダントトップ Blue Lace Agate
ざくろ石 (ガーネット) ペンダントトップ Garnet
「 ざくろ石、エメラルド・・・象がんも彫刻も金でなされた・・・ 」
(旧約聖書 エゼキエル書 第28章)
緑柱石 (エメラルド) ブラジル Emelard / Bahia State Brazil
〜 エルサレムの城壁の土台に飾られた鉱物 〜
ここで特筆すべきは、やはり翡翠でしょう。聖書に見られるのはこの場面一度きりです。
様々な国のネフライト、ジェダイトをご紹介。
「 都の城壁の土台はさまざまな宝石で飾られていた。
第一の土台は碧玉、
第二はサファイヤ、
第三はめのう、
第四は緑玉、
第五は縞めのう、
第六は赤めのう、
第七はかんらん石、
第八は緑柱石、
第九は黄玉石、
第十はひすい、第十一は青玉、第十二は紫水晶であった。 」
(新約聖書 ヨハネの黙示録 第21章)
ひすい (ジェイド) ニュージーランド Jade / New Zealand
ひすい (ネフライト) ロシア Nephrite / Russia
ひすい (ジェイド) ミャンマー
Jade / Myanmar
ひすい (ジェイド) 新潟県 糸魚川 Jade / Niigata pref. Japan
翡翠 (ジェイド) リング Jade
ガテマラヒスイは、古代の遺跡からも出土しています。昔から大切にされてきた当時の宝物の一つです。
〜キリストがその手で触れたかもしれない硝子たち 〜
「 ・・・御座の前は、水晶に似たガラスの海のようであった。」
(新約聖書 ヨハネの黙示録 第4章)
ガラス イヤリング (カンボジア出土 紀元前300〜後200年頃)
ローマングラス 涙壷
ローマングラス 長頸瓶
ローマングラス 長頸瓶
〜 バビロニアの交易 〜
締めくくりは、当時の賑やかな市場の様子が伺える場面です。
「 大いなる都、不落の都バビロン・・・・その商品は
金、銀、宝石、真珠、麻布、紫布、絹、緋布、各種の香木、
各種の象牙細工、高価な木材、銅、鉄、大理石の器、・・・ 」
(新約聖書 ヨハネの黙示録 第18章)
イズラミックネックレス 瑠璃 (ラピスラズリ) Lapislazuli
ハイクウォリティのラピスラズリ アフガニスタン産
「 その手は宝石をはめた金の円筒のごとく、そのからだはサファイヤをもっておおった
象牙の細工のごとく、」
(旧約聖書 雅歌 第5章)
黄銅鉱 (キャルコパイライト) モロッコ Chalcopyrite / Ounjrane Morocco
安四面銅鉱 (テトラヘッドライト) ペルー
Tetrahedrite / Pacchapaqui Bologuesi Province Peru
「見よ、わたしはアンチモニイであなたの石をすえ、サファイヤであなたの基をおき・・・」
(旧約聖書 イザヤ書 第54章)
輝安鉱 (スティブナイト) 江西省 中国 Stibnite / China
参考資料
旧約聖書 1955年改訳 日本聖書協会
新訳聖書 1954年改訳 日本聖書協会
神田神保町 薫風花乃堂 くんぷうはなのどう
e-mail k_hananodou@yahoo.co.jp
TEL 03-3511-8045
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